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熱中症対策義務化について

2025年06月04日

 労働安全衛生規則の改正により、2025年6月1日より、熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見や重篤化を防ぐために必要な措置を講じることが罰則付きで義務付けられることとなりました。
 元々、労働安全衛生法22条2号では、事業者は高温等による健康障害を防止するため必要な措置を講じることが求められていました。熱中症予防に関する措置としては、労働安全衛生規則で「暑熱、(中略)の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、(中略)通風等適当な温湿度調整の措置を講じ」ること(同規則606条)や「多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料を備え」ること(同規則617条)などが義務付けられていました。
 今回の法改正により、これらの措置に加えて、一定の条件に該当する作業を行わせる場合に、①報告体制の整備、②対応手順の作成、及び③関係者への周知(以下「改正措置」といいます。)が義務付けられました(同規則612条の2)。

●改正措置を講じる義務の対象となる作業

義務の対象となる作業は「暑熱な場所において連続で行われる作業等熱中症により健康障害を生ずるおそれのある作業」です。
厚生労働省の通達によれば、具体的には、ⓐWBGT(湿球黒球温度※)28度以上または気温31度以上の環境下で、ⓑ連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業とされています。

※WGBTとは、気温に加えて、湿度、風速、輻射熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さの指数をいいます。WGBTは計測器で計測するほか、環境省の熱中症予防情報サイトで、全国各地点における、現在のWGBT及び2日後までの予測値が公表されていますので、確認することができます。

環境省の熱中症予防情報サイト https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php

①報告体制の整備

報告体制の整備とは、熱中症のおそれがある作業に従事する者が、熱中症の自覚症状を有する場合、または熱中症のおそれがある作業者を見つけた場合に、その旨を報告することができるようにする体制を整備することが求められています。
具体的には、報告する連絡先(電話番号・メールアドレス)、及び担当者を決める必要があります。

②対応手順の作成

対応手順の作成とは、作業場ごとに、熱中症のおそれのある者を把握した場合に、現場において迅速かつ的確な判断ができるように応急処置の手順などを、あらかじめ定めておく必要があります。
具体的な対応手順の例は、厚生労働省のパンフレット(下記URL)の6頁・7頁にサンプルが載っていますので、そちらをご参照いただき、各社の事情を反映させたものとすることが良いと考えます。

https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/content/contents/002212913.pdf

③関係者への周知

 ①の報告体制の整備や②の対応手順の作成した場合、その内容を熱中症のおそれのある作業に従事する者に周知する必要があります。
 この周知にあたり注意すべき点が2点あります。
一点目が、周知の対象となる「熱中症のおそれのある作業に従事する者」には、雇用する労働者に限らず、同一の作業場で、労働者以外の熱中症のおそれがある作業に従事する者(例えば、下請けの従業員や業務委託者など)も含まれるということです。
二点目が、②の対応手順の周知は、作業場ごとに行う必要があるということです。

●対応方針について

 過去5年間のデータによれば、東京では、6月に入ると昼間のWGBTの最高値が28度を超える日が出てきて、概ね9月ころまで昼間のWGBTの最高値が28度を超える日が発生している状況です。また、外気温も、東京では、例年6月下旬から最高気温が31度を超える日が出てきます。
 こうしたことを考えますと、改正措置を講じる義務の対象となる作業に当たる可能性が少しでもある場合には、出来る限り改正措置を講じるようにしておいた方が安全です。改正措置自体は、上記の通り、それほど実施が難しいものではないですが、他方で義務の対象となるのに改正措置を実施していなかった場合、刑事罰が科されることも有り得るためです。

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